メル・ギブソン『アポカリプト』レビュー
惹きつけられるマヤ文明
マヤ文明は、メキシコの南東部、ユカタン半島を中心とする、グアテマラ、ベリーズなどいわゆるマヤ地域を中心として、紀元前8000年頃から徐々に栄えたいわば半島文明です。高度に発達したマヤ文字をもつ文明でもありました。他の古代文明とは違い、セノーテという淡水の泉に恵まれたため、大河の流域でないにも拘らず文明にまで発達したという特徴があります。
8世紀の古典期は、マヤ文化の絶頂期であるといえます。マヤ文明の人口は最大1,000万人と推定されていますが、この期の壮麗な石造りのピラミッドなどの建築物、石彫、石細工、土器などの作品に、マヤ文化の豊かな芸術が華開きました。また、天体観測に基づく高度な暦の計算や文字記録も発達し、鉄器なし、車輪なし、河川なしというハンデありながらも、特徴的な文明を作り出したのです。そんな隔絶した地域にマヤ文明に、若い時から惹きつけられて来ました。
このストーリーはそんなマヤ文明の末期、神殿の生贄として選ばれた青年の逃避行を描いたものです。映画の最後に、海岸の沖合にスペイン船らしき船を見つけるところで終わっていることから、1517年、マヤパンという都市国家が支配していた時代だろうと推測できます。
メル・ギブソンのマヤ観
マヤ文明が素晴らしさは、ピラミッドを始めとする建築物、石像など幾らでもあります。ただ、個々の遺跡をいくら見ても、マヤ人の生活や都市の風景は見えて来ません。そこが惜しいところです。
自らも素晴らしいアクション俳優であるメル・ギブソンが監督したとあって、アクション映画としても秀でていると思いますが、もっとすごいと思ったのは、実際にマヤの風景を作り出したことです。
ジャングルの中で縦横無尽に走り回っていること、会話が実際に全てマヤ語であること、ほとんどの登場人物がマヤ人(の子孫)もしくはネイティブ・アメリカンの素人であることです。
再現されたマヤ神殿をも含めて、前作の『パッション』もそうでしたが、こだわり抜いた臨場感と、圧倒的な映画のパワー(=監督のパワー)が映画ー!と感じさせられました。