幕弁ブログ

私は電車で旅をするのが好きで、駅弁はその好きなもののひとつです。その中でも、いろいろな味が少しずつ楽しめる、幕内弁当が一番好きです。そんな幕弁のようなブログを見ていただきたいと思っています。

高嶋 哲夫『パルウイルス』レビュー

地球温暖化によりシベリアの永久凍土が徐々に溶け始める。
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閉じ込められていたマンモスの屍骸が姿を現す。
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その体内で何万年も眠っていた未知のウイルスが、接触した人間の一人に感染する。
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彼を媒介として、音速の速さで世界に向かって感染を始める。
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致死率60%。

それが「パルウイルス」のプロローグです。

 

永久凍土の解凍は実際に既に始まっています。何年も前に「NHKスペシャル」で特集されていました。そこで見つかるかも知れない、未知のウイルスについても指摘されていました。最大の懸念は、そこから何が出てくるか分からないことです。パンドラの箱は、ありとあらゆる災厄が飛び出した最後に「希望」が底に残っていたというオチですが、その「希望」すら無いかも知れない。

 

なぜなら、現在世界でパンデミックを引き起こしている病原体は、毎年変異を繰り返しています。逆にいえば元を辿っていけば既知の病原体に行き着くでしょう。ですが、何万年も前に感染により死んだマンモスからは、何万年も変異を遡ることになるため、まったく系統樹の違う病原体が見つかる可能性が大だからです。現在のワクチンに対する知見、経験が全く役に立たないかも知れない。

 

 

だから何よりも優先されるべきは、未知の病原体が拡散するる前に「封じ込める」こと。そために、「アメリカ人」の主人公がアラスカとシベリアの間を走り回るというストーリーです。

 

同様の「パンデミック」をテーマとした旧作に、「首都感染」があります。この小説はコロナの前に発表されました。結果的にコロナ騒動のシミュレーションのようになっていますが、舞台が日本国内なので政治や医療現場、防疫体制それに国民の動きに臨場感があって、私はこちらの作品の方が好きです。

 

 

パンデミックから人類が滅亡するという小説に、小松左京の「復活の日」があります。昭和の作品です。この作品は、火星から飛来した隕石に付着していたウイルスが感染源という、系統が全く違うある意味「パルウイルス」に似たシチュエーションが下敷きになっています。しかし高嶋哲夫の2つのパンデミック小説との違いは、火星の病原体の増殖過程を科学的に説明するという、ハードSFとして非常に面白い、それだけに恐怖を感じる筋立てになっている点が特徴的です。私はこれも好きですね。