中山七里『殺戮の狂詩曲』レビュー
御子柴礼司シリーズの第6弾
高級老人ホームで発生した、令和最悪の大量殺人事件。好人物を装っていた介護職員。彼の心中に満ちていた邪悪な思いとは?
最低な被疑者への弁護を名乗り出た、悪評塗れの弁護士・御子柴礼司。なぜ勝てそうもない被疑者に対して、高額の弁護費用が取れない国選弁護士に名乗り出たのか。彼の胸に秘める驚愕の企みとは?
モデル
中山七里の小説は、よくこんなえげつない殺人事件考えるな、というケースが多いですね。だから何となく、空想で思いついたのだと思っていました。が、全部調べた訳ではないですが、それぞれの事件にモデルがあるようです。
たまたま新聞で、最近の無差別大量殺人を扱った記事を見ていました。その中に、神奈川県相模原市の障害者施設で19人の入居者を殺害した元職員のケースが紹介されていました。
被告の主張も、「障害者に生きる意味はない。安楽死を。」と小説を地で行くものだったようです。その他にも、同じ県内で人数こそ違うものの、老人ホームで殺人を犯した職員の記事がありました。
特定の事件のみを下敷きにした訳ではないでしょが、それらをモデルにしたのは間違いないと思います。そうでなければ、これ程綿密でおぞましい記述はできなかったのではないでしょうか。またモデルがあると思うと、殺人の表現に格段に現実味が加わり、濃密さが一層増すように感じました。
悪趣味かも知れませんが、他の作品でもモデルを探してみようと思いました。
どんでん返しの弁護こそ御子柴礼司
この作品でも、最後にあっと言わせるどんでん返しがあります。が、本来は不可能を可能にする弁護こそ、小説・御子柴礼司の醍醐味だと思っています。またそれを期待して買い続けている訳ですが。その意味では、本作はちょっと毛色が違った作品だと思います。
また多くの作品の中で触れられる、事務員・洋子や第一話の弁護人の娘である倫子(小6)との掛け合いが好きで、それが陰惨な部分が多い作品の中で救いも起伏にもなっているのですが、今回はそれが少なくて残念な点でした。
とは言え、意表を突く結末は十分楽しめますし、その説明も取ってつけたご都合主義からではなく、十二分にそうか!と思わせるところは、さすが6話まで続いているだけのことはあると唸らされました。