幕弁ブログ

私は電車で旅をするのが好きで、駅弁はその好きなもののひとつです。その中でも、いろいろな味が少しずつ楽しめる、幕内弁当が一番好きです。そんな幕弁のようなブログを見ていただきたいと思っています。

潜水艦映画の傑作『Das Boot』レビュー

 

 

『Das Boot』(ダス・ボート。ドイツ語の'Uボート')は、1981年私が26歳の時に封切られました。西ドイツが制作した生粋のドイツ映画で、当時、『Das Boot』はドイツ史上最も製作費のかかった映画のひとつでした。そのほとんどはセットに費やされました。


特に注目すべきはUボート内部のセットで、本物の潜水艦の装備をすべて再現し、波、潜水、爆雷をシミュレートする動きを与えることができるジンバルに取り付けられるよう慎重に作られました。


セットは、水が押し寄せたり、火災が発生したりするように設計されていました。カメラマンは非常に限られたスペースでの作業を強いられ、ジャイロスタビライズされた特殊なカメラで俳優を撮影しながらセット内をダッシュしていました。

 

あれから40年以上が経ちますが、映画を見た時の衝撃は少しも色褪せていません。急速潜航するために、乗組員全員が船首に向かって狭い通路を猛ダッシュするとか、海上の敵駆逐艦から放たれたソナーが船殻を思いっきり叩く音、沈潜している潜水艦の真上を駆逐艦が通過する時のシュッシュッシュというスクリュー音、限界潜航深度の150メートルを超えて潜航する時の船殻が悲鳴を上げるように軋む音、ボルトが次々に弾け飛ぶ音。

 

音だけの世界で、音を通じて初めて知った事ばかりでした。そして極め付けは、限界潜航深度の潜水艦の至近距離で爆発する敵爆雷の恐怖です。まさに、死が数メートル先で叫びまくってる、という感じしかありませんでした。

 

よくできたセットと効果音で、実際の戦闘というよりも戦争の現場に突然放り込まれたように感じました。3DもVRもない時代でしたが、その臨場感はそれまでに見たどの戦争映画よりも半端なかったです。敢えて『Das Boot』に匹敵するリアリティと臨場感を持った映画を上げるなら、スティーブン・スピルバーグの『プライベート・ライアン』くらいでしょうか。

 

 

戦闘中の潜水艦内は、文字通り鉄製の棺桶だと感じました。恐怖と絶望の色しか目に入りません。観客に傍観者でいることを許さない、リアリティと臨場感はまさに圧倒的です。こんなところから生きて帰れる筈がない。戦場における恐怖と絶望がどんなものなのか、悲鳴と共に、初めて知った思いです。

 

映画の中の主な登場人物以外の乗員の若者は、俳優ではない一般オーディションで選ばれたそうです。勿論、戦争もUボートも知りません。彼ら自身が、彼らの祖父や父が経験した悲惨さを追体験した筈です。

 

映画冒頭の「4万人がUボートで出撃し、うち3万人が還らなかった。」というナレーションの後に、深海の暗闇の中からUボートが姿を現すシーンは、冥界から現れたようでした。

 

まさにこの映画は、Uボートで出撃し還らなかった人たちへの鎮魂の作品だと感じました。

 

makuben-blog.hatenadiary.jp

 

makuben-blog.hatenadiary.jp